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その7 (TOP-HAT Newsから)

 2010年12月の第28号から2011年3月の第31号までの4本です。第31号は東日本大震災が発生した直後に編集を進めました。世界中の様々な国や組織、個人から被災地への支援が相次いで表明された時期でもあります。UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長からも《国際社会はいまこそ日本の人たちに対し、いかにその貢献に感謝しているかを示す時だと私は確信しています》というメッセージが送られてきました。
 「はじめに」では、そうしたメッセージに勇気づけられつつこう書いています。
 《日本は一人じゃない、孤立しているわけではないというメッセージを送っているのだとしたら、ありがたく、そのメッセージを受け止めたい。そして、エイズの流行というゆるやかに進行する危機との困難な闘いを継続してきた日本のHIV/エイズ関係者もまた、これまでに蓄積されたエイズ対策の経験と人のつながりの中で、被災者支援に役立てられるものがあれば、大いにお役に立ちたい。そんな気持ちでいる人も多いのではないかと思いつつ、今回のTOP HAT Newsをお送りします》

◎世界のHIV陽性者数は3330万人 UNAIDS最新推計(第28号 2010年12月)
 エイズの病原ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している人は、世界中でどのくらいいるのでしょうか。HIV/エイズ対策の前提ともいうべき数字ですが、実は正確なところは分かりません。感染はしているのだけれど、検査を受けて確認しなければ、そのことには気づかない。その感染に気付いていない人の数までは把握できないし、それ以前に感染した人の数を把握するためのシステムが整っていない国もたくさんあります。
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は毎年、世界エイズデーの前に各国から集められたさまざまなデータを分析し、年間の報告書で新規感染数などの推計値を発表しています。あくまで推計です。実は去年までの推計は不正確だったので、新たな推計値を発表します・・・といったこともしばしばあります。
 発表された数字は、そうした条件付きの推計値であり、将来また変わることもありうるという留保を付けたうえで受け止める必要がありますが、とりあえず今はその推計を前提にして世界の流行の現状をとらえていこうということになっています。今年は11月23日にその最新推計が発表されました。昨年は推計値を公表していなかったので、今回は「毎年」ではなく、2年ぶりとなっています。各国からのデータを集約するだけでも大仕事だし、分析や推計の手法も精度を増しているので、新たな情報と方法で過去のデータを洗いなおすような作業をしていると時間がかかるのでしょうね。これからは2年に1回くらいのペースで発表になるのかもしれません。
 世界のHIV陽性者数(もちろん推計ですが)などは、いろいろな場所で繰り返し使われることになるので、基本となる推計値を紹介しておきましょう。

世界のHIV陽性者数(09年末)  3330万人(3140万〜3530万人)
参考(99年末)  2620万人(2460万〜2780万人)
年間新規HIV感染者数(09年)  260万人(230万〜280万人)
参考(99年)  310万人(290万〜340万人)
年間エイズ関連死者数(09年)  180万人(160万〜210万人)
参考(04年)  210万人(190万〜230万人)
流行開始以来のHIV感染者数  6000万人以上
HIV関連死者数  3000万人近く

 かつて、世界のHIV陽性者数は4000万人を超えていると推計されていました。現在(正確には2009年末現在)の推計では3330万人となっていますから、減ったということでしょうか。実はそうではありません。HIVに感染して生きる人の数はいまも世界全体では増加を続けています。少し解説しておきましょう。
 かつては4000万人と推計されていた世界のHIV陽性者数がいまは3330万人になっているのは陽性者の数が減ったからではありません。サハラ以南のアフリカ諸国やインドなどでエイズ対策が進み、より正確なデータが得られるようになったうえ、そのデータをもとにした分析も精度を増していることから、以前に比べればはるかに現実に近い(と思われる)推計が得られるようになった。その結果が3330万人だということです。
 参考として99年末の人数も出ていますが、これは現在の手法で99年の推計値を計算しなおすと、当時は2620万人だったということを示しています。この10年で世界のHIV陽性者の数は710万人も増えているということになりますね。残念ながら、世界のエイズの流行は下火になったわけでも、縮小しているわけでもありません。
 一方で、年間新規HIV感染者数(09年)は 260万人で、99年当時の310万人より50万人も少なくなっています。これは世界がHIV/エイズの予防対策に力を入れた結果、新しく感染する人の数は減ってきたということを示しています。この10年間のエイズ対策の努力は無駄だったわけではありません。
 年間の新規感染は減っているのに、世界のHIV陽性者数は増加を続けている。この一見、矛盾したデータは、エイズのために1年間に亡くなる人の数より、新たにHIVに感染する人の数の方が多いということを示しています。この傾向もまた、残念ながらしばらくは続くでしょう。

 治療の普及に力を入れ、エイズによる死者を減らす。
 予防対策に力を入れ、新たにHIVに感染する人を減らす。

 これは世界のエイズ対策の2大目標です。推計の数字が意味するものをきちんと受け止め、この2つの目標を同時に追求していくことこそが実は、HIV/エイズの流行の拡大に歯止めをかけ、縮小に転じていくというミレニアム開発目標(MDGs)の目標6(感染症対策)実現の大きなカギになっていることも理解しておく必要があります。

◎前途多難、でも希望の節目に(第29号 2011年1月)
 あけましておめでとうございます。といっているうちにもう1カ月近く過ぎてしまいました。早いですね。
 若いゲイ男性の間に広がる奇妙な肺炎の症例が米疾病対策センター(CDC)の死亡疾病週報(MMWR)に初めて報告されたのは1981年の6月でした。当時はまだ、エイズという名前もつけられていなかったのですが、この時の報告が後に世界で最初のエイズの公式症例報告とされるようになりました。その報告から今年はちょうど30年の節目にあたります。
 2001年6月には、ニューヨークの国連本部で国連エイズ特別総会が開かれ、コミットメント宣言が全加盟国一致で採択されました。世界各国の指導者が、本気になってHIV/エイズ対策に取り組みますと約束(コミットメント)した宣言だったのですが、その歴史的総会からだと、ちょうど10年になります。つまり今年は、エイズ対策史上の大きな節目の年ともいえるのですが、それではその節目の年はいったいどんな1年になるのでしょうか。

・国連合同エイズ計画(UNAIDS)戦略目標2011~2015
・国連エイズ特別総会10周年の検証会議
・第10回アジア・太平洋地域国際エイズ会議(釜山)
・エイズ予防指針作業班

 以上4点は、2011年を展望する上でのキーワードです。1番目と2番目は、世界全体のHIV/エイズの流行に対応する動きであり、3番目はアジア、4番目は国内のエイズ対策が対象になっています。世界、アジア、日本という3つのフェイズのエイズ対策は、実は切り離されて存在しているわけではなく、密接に関係しています。できれば、そのあたりのことを説明したいと思うのですが、ちょっと荷が重いかもしれません。でも、やってみましょう。
 ただし、4番目のエイズ予防指針作業班は、感染症法に基づくエイズ予防指針の見直し作業を行うために1月26日に第1回会合が行われ、これから検討作業が本格化していくことになるので、次号でまとめて内容を報告したいと思います。あしからず。
 ということで、今回は1〜3番目の項目について特集します。
 (注:詳しくはこちらで http://asajp.at.webry.info/201101/article_16.html

◎おかげさまで30号(第30号 2011年2月)
 HIV/エイズの流行やエイズ対策に関する情報を広く伝えるためにTOP-HAT News第1号を発行したのは2006年の6月でした。あれからほぼ5年が経過し、2011年2月発行の本号をもって、TOP-HAT Newsは第30号の節目を迎えます。
 簡単に歴史を振り返ってみましょう。創刊当時は隔月刊でしたが、2010年3月から月刊にグレードアップしました。これは内外のHIV/エイズ情報がどんどん増えたからではなく、むしろその逆です。厚生労働省のエイズ動向委員会で集約される新規HIV感染者・エイズ患者の報告件数から判断して、国内の流行はゆるやかに拡大を続けているのに、どういうわけか国内のHIV/エイズに対する関心は低下し、HIV/エイズ対策に関連する情報も減り気味です。つまり、いまこそ情報が必要ですよという時期にせっせと情報量を減らし、感染の拡大に進んで協力しているようなものです。
 いくらなんでも、これはまずいでしょうということで、隔月刊でも青息吐息の編集スタッフが無謀にも月刊発行に踏み切った次第であります。創刊第1号の目次は以下のようになっています。

・はじめに 世界も東京も
・最近のニュースから
 エイズ・ワクチンの開発はどこまで進んでいるか
 世界のHIV陽性者数は3860万人 UNAIDS最新報告
 期間限定 東京都のHIV/エイズ啓発拠点「ふぉー・てぃー」オープン
・HIV/エイズと企業の社会貢献
・エイズ年表簡略版

 最初の「世界も東京も」では、ニューヨークの国連本部で国連エイズ対策レビュー総会が開かれたことを紹介しています。2001年の国連エイズ特別総会で各国が行った約束がどこまで守られているかを検証する会合です。その5年後の検証からさらに5年が経過して、今年6月には10年後の検証がやはり国連本部で予定されています。
 この5年の間には、エイズ・ワクチン開発の大規模な臨床試験の結果が思わしくなかったことが分かり、世界の研究者から失意のため息がもれました。いまはそこから研究の再構築をはかっている状態です。
 世界のHIV陽性者数については、より現実に近い推計値が得られるようになったとしてUNAIDSがかなり大幅な下方修正を行いました。最新の推計は3330万人です。3860万人と比べると相当、減った印象ですが、実は推計の精度があがった結果の下方修正だということです。減ったわけではなく、もともと世界のHIV陽性者数は2006年当時に考えられていたほどには多くはなかったということですね。何だ、大騒ぎしていたけど、そんなに大したことではなかったのかといった誤解を与えた印象もあり、国際的なエイズ対策に対する関心の低下傾向の一要因になっているようです。
 期間限定だった東京都のHIV/エイズ啓発拠点「ふぉー・てぃー」はその後、常設の拠点になり、現在も東京・池袋で健闘しています。これは立派、機会があればみなさん、ぜひ訪ねてみてください。
 http://www.4tweb.jp/

◎危機に直面する日々(第31号 2011年3月)
 東日本大震災の被災者の皆様にお見舞いを申し上げます。また、亡くなられた方々に深くおくやみ申し上げます。
 地震が発生した3月11日午後、東京・千代田区の東京逓信病院講堂では「エイズ予防のための戦略研究」の報告会が開かれていました。わが国のHIV/エイズの流行はこの10年ほど、男性同性間の感染を中心に拡大しています。エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が、感染の高いリスクにさらされている集団に集中的に広がっていることは、報告の数字でも容易に推測でき、流行の第2段階ともいうべきConcentrated Epidemic(局限流行期)に差しかかっているのではないかと危惧されています。大都市圏のゲイコミュニティなどを中心に男性と性行為をする男性(MSM)の間での感染予防対策が急務と指摘されているのはこのためです。
 その喫緊の課題に対応すべく編成された厚労省の戦略研究班が、2006年度から10年度までの5年に及ぶ研究成果を発表する重要な報告会でしたが、途中で建物がゆさゆさ、みしみしと揺れだし、発表を聞いていた人たちも、これはまずいと机の下に潜り込んで揺れがおさまるのを待ちました。会場の建物が堅牢な構造だったこともあって、がちがちと何かにぶつかるような揺れ方でもありました。
 特定非営利活動法人アフリカ日本協議会(AJF)が発行するメールマガジン「グローバル・エイズ・アップデート」の165号は3月13日に発行されました。中国でHIV活動家が実刑判決を言い渡されたこと、今年のアフリカ・エイズ会議が12月にエチオピアで開かれることなどが紹介されています。編集員I氏はその編集後記の中で《東北・関東地方を襲った恐るべき地震と津波のニュース、そして福島第1原子力発電所の危機的状況のニュースを聞きながら、この「グローバル・エイズ・アップデート」を編集しています》と書いています。
 http://www.melma.com/backnumber_123266_5131188/
 I氏は今回の地震により、日本が援助国、先進国の立場から国際的な支援を必要とする非援助国の立場に変わったとの認識を示し、《日本はこの地震をもって、それまでとは異なる国になった》と感じています。そうかもしれないし、そうではないかもしれませんが、海外からもさまざまな国や組織が日本に対する支援を表明しました。その中には日本から多額の援助を受けてきた途上国も多く、「援助国」「非援助国」という分け方をすれば、一時的にせよ立場は逆転した印象です。
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長からも支援のメッセージが送られてきました。《日本は常に世界の保健の増進に貢献し、人間の尊厳を守ってきました》とシデベ氏は書いています。
 http://miyatak.iza.ne.jp/blog/entry/2198346/
 《国際社会はいまこそ日本の人たちに対し、いかにその貢献に感謝しているかを示す時だと私は確信しています》
 情けは人のためならず。思わず、そんな言葉が浮かんできます。世界中のたくさんの国、たくさんの人たちが、日本は一人じゃない、孤立しているわけではないというメッセージを送っているのだとしたら、ありがたく、そのメッセージを受け止めたい。そして、エイズの流行というゆるやかに進行する危機との困難な闘いを継続してきた日本のHIV/エイズ関係者もまた、これまでに蓄積されたエイズ対策の経験と人のつながりの中で、被災者支援に役立てられるものがあれば、大いにお役に立ちたい。そんな気持ちでいる人も多いのではないかと思いつつ、今回のTOP HAT Newsをお送りします。

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